2000年度秋学期 生物・生態VA,B 講義ホームページ
(車道校舎では、生物・生態Uとして開講しています)

2. 動植物での生命操作

 

(4)色々な生命操作技術  
 a.細胞融合 (図1)    
  センダイウィルス(大阪大、岡田善雄)…動物x動物は容易
  ポリエチレングリコール…動物x動物、植物x植物 共に可能になる
      →→植物での応用盛ん…ポマト、トマピー、オレタチなど        
  動物での応用……キメラの作成、モノクローナル抗体(図2)
 
 b.遺伝子組換え
  原理;生物が持つDNA(ミトコンドリアDNAは除く)は、共通の遺伝暗号(コドン)を
       持つことから可能になった技術
       
         制限酵素*の発見により技術的に確立
 
  応用

  *植物…多数が実用化;
 
   遺伝子組換え作物(GMO)---害虫耐性穀物、除草剤耐性穀物、“flavor saver”
                  栄養成分調整作物(ビタミンE高含有ナタネなど)

   機能付与植物---耐乾燥性植物(砂漠の緑化)、窒素固定機能植物(栄養不良土壌でも
                     生育可能)、観賞用植物(青いカーネーション「ムーンダスト」
                     (サントリー開発による日本初の遺伝子ビジネス商品)

     ●光る煙草の葉---ホタルのルシフェラーゼ系遺伝子を煙草に導入
     ●青い綿花---染色なしで青い綿布ができる

  * 微生物(微生物の工場化)

   各種菌類にヒトのホルモン類の遺伝子を導入 → 医薬品の安価な製造が目的
    たとえば、大腸菌にインスリン、ヒト成長ホルモンなどを生産させる

    * 動物(動物工場の作製)

   ミルク(メス)や尿中(オス)に有用物質(医薬品)を分泌させる試み(図3)
     → 体内に蓄積した時の影響を回避

    ヒツジの乳腺細胞内で血液凝固因子(血友病)やAAT(α-antitrypsin、肺気腫)、
    ヤギの乳腺細胞中に血栓溶解剤(心臓疾患)を生産させ、ミルク中に分泌させる

    問題点:動物特有のウィルスが混在する可能性あり
        例えば、ウシでのBIV(ウシ免疫不全ウィルスの存在)→ヒトに感染?

    ●ヒト成長ホルモン遺伝子のマウスへの導入→スーパーマウスの誕生
     ウシ、ブタへの応用---代謝系に異常が生じ不成功
     サケへの応用---ウシ、ニワトリの成長ホルモン遺伝子で体を大きくする    
    ●HIV遺伝子を導入したマウス---第二世代でエイズを発症→エイズモデルマウス                                         として動物実験に有用か?
    ●遺伝子欠損法(ノックアウト法)
     特定の遺伝子を取り除き、発生した個体の性質から欠損遺伝子の機能を探る
      →→多数のノックアウトマウスが誕生---免疫系の解明に寄与
  
    *ヒト

   遺伝子治療;体細胞のみ、生殖細胞(精子、卵子)への導入は禁止
         
    1980年5月ー7月 サラセミア治療の2女性(イタリア、イスラエル)に遺伝子                              治療
    1990年9月 アメリカで初めてADA(アデノシンデアミナーゼ欠損症、
                        バブルボーイ症候群)の女児に許可→化学療法との併用で
                        一応成功(現在までの唯一の成功例)

    その後1997年までに世界中で3000件近く試みられているが、
            成功例としての報告なし →→ 1997年アメリカでは遺伝子治療法の
            見直しを求める議論が沸騰
    
    方法論の改変---ベクターの改良などにより成功例の増加
     経口遺伝子治療:「遺伝子錠剤」投与による乳糖不耐症の改善
             腸管上皮細胞でのラクターゼの発現

     胎児遺伝子治療:出生後ではなく出生前治療の試み
      ラット、マウス、ウサギでは既に成果を挙げているが、倫理面から現在論争中
 
   遺伝子診断---予測医療の発展

   DNA鑑定---親子鑑定、犯罪捜査

   日本 → 厚生省、文部省の規制により後発、しかし最近では、血管新生の治療に効果

     **制限酵素の働き……遺伝子組換えと遺伝子診断 (図4,5,6)   

 c.クローニング…核移植、   クローン(klon)ギリシャ語で小枝が語源    
 
   クローニング…無性生殖、親のコピー → 均質な個体の獲得が可能   

  *同じものを大量に作製……“クローニング”と表現 
    技術的確立……マイクロマニュピレーションの確立  

    クローニング技術の推移 

  1.クローンカエル(1952年アメリカ、フィラデルフィアガン研究所)、体細胞核移植
    
        ドナー;おたまじゃくしの腸管上皮細胞の核       
        ↓ ドナーの初期化は行わず、核移植を実施       
    レシピアント;アフリカツメガエルの受精卵に放射線を照射→核の不活性化
     ↓        
       代理母へ移植……世界初の人工クローン個体        

    2.クローンウシ(イギリス、1980年代に実用化)、受精卵分割法

   16細胞期の受精卵を16個の細胞に分離     
       ↓       
       代理母の子宮に移植、16頭のクローンウシを作製    
    胎児が異常に大きく(通常の二倍くらい)成長する等の障害のため、一時中止    

    3.クローンヒツジ(ドリー)(1997年イギリス)、未受精卵使用の体細胞核移植

   ドナー;ヒツジの乳腺細胞(分化した細胞)
        ↓  初期化(分化した細胞を、全能性を持つ未分化の状態に変換)
    ↓ 初期化した核を取り出す
    ↓ 核移植   
   レシピアント;ヒツジの未受精卵を除核    
    ↓ 電場融合(未受精卵の細胞質と乳腺細胞の核を融合させる)    
   代理母の子宮に移植 

   クローン実験の生物学的意義  

     1.分化した細胞での遺伝子の機能
      全能性は残存しているか?あるいは全能性を回復することは可能か?   
          発現遺伝子および構造遺伝子(housekeeping genes)以外の遺伝子は
       どうしているのか?  

     2.細胞質の発生、遺伝への関与

 クローン技術の現状…遺伝子からみたクローン技術  

     1.核移植、電場融合によるクローン作製   
           →ミトコンドリアDNAはレシピアント(卵子)由来 
    2.クローン胎児の異常成長
      早期成長の傾向→帝王切開による出産
   3.クローンの寿命は?
      クローン個体は短命→テロメアの関与か?
      ドリーの細胞はテロメアが短いといわれたデータは、その後間違いと判明。  
     4. 低い成功率…数%の成功率
            “Clones:A Hard Act to Follow”ref.Science vol.288,9June2000,1722〜
  
  クローン技術の応用、展望 

    1.ヒトクローンの実現 ⇒ 目的は?  
     2.移植用臓器の作製……キメラ個体、ハイブリッド個体の作製  
     3.クローン作製に2種類の細胞が必要か? → すべての遺伝子が同一の個体    

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