寇準 Kou Zhun (北宋)
寇準(こうじゅん 961~1023)、字は平仲(へいちゅう)。華州下邽(陝西省渭南)の人。北宋の著明な政治家で、当時の主戦派の代表的人物。太平興国四年(979)に19歳で進士に合格。その直後、帰州巴東(湖北省巴東)の知県となり、江南の風景をうたう情趣あふれる詩を多く作り、みずから『巴東集』を編集して「寇巴東」と呼ばれた。その詩には唐人の風があると評される。真宗の景徳元年(1004)、宰相に就任した。折から遼の軍が南下して宋の領域を侵した時、真宗の親征を主張して澶州(河南省濮陽)で大勝し、「澶淵の盟(せんえんのめい)」と呼ばれる和議を結んだ。尚書右僕射、太子太傳などを歴任、萊国公に封ぜられたが、晩年、讒言にあって地方に流され、雷州(広東省海康)で没した。『寇忠愍公詩集』がある。
書河上亭壁 河上の亭の壁に書す
岸闊檣稀波渺茫 岸は闊く 檣は稀に 波は渺茫たり
独凭危檻思何長 独り危檻に凭れば 思い 何ぞ長き
蕭蕭遠樹疏林外 蕭蕭たる遠樹 疏林の外
一半秋山帯夕陽 一半の秋山 夕陽を帯ぶ
〔詩形〕七言絶句 〔脚韻〕茫、長、陽(下平声・陽韻)
○全四首の連作で、四季の景物を分けてうたっている。ここには秋の景色を描写した第三首を選んだ。
○書壁 詩文を壁の上に書き付ける。
○河上 地名。今の山東省聊城県観城鎮の東南、黄河のほとりにある。
○檣 帆船の上の高くそびえる帆柱。それによって帆船をさす。
○渺茫 川の上の煙波が茫々として果てしなく広い様子。
○凭 よりかかる。
○危檻 高い欄干。「危」は、高い。
○思何長 物思いがいかばかり悠長・深遠であることか。
○蕭蕭 秋風が木の葉を吹き落とす音。
○疏林 木の葉が凋落したために、林の木々が稀疏まばらに見えている。
○帯夕陽 夕陽の残光に照らし出されている。
《河上のあずまやの壁に書き付ける》
岸は遠く、船は稀に、波はどこまでも果てしなく、
ただ一人高楼の手すりによれば、物思いは尽きない。
ひっそりともの寂しい、遠くのまばらな木立の向こうに、
秋の山々が、半ば夕陽に照らされている。