1−3.さまざまな生命操作技術とその応用
1.細胞融合 (図1)
センダイウィルス(大阪大、岡田善雄)…動物x動物は容易
↓
ポリエチレングリコール…動物x動物、植物x植物 共に可能になる
→→植物での応用盛ん…ポマト、トマピー、オレタチ,ユーブルなど
動物での応用………キメラの作成(ギープの誕生)(図2)
2.遺伝子組換え
原理;生物が持つDNA(ミトコンドリアDNAは除く)は、共通の遺伝暗号(コドン)を
持つことから可能になった技術
制限酵素の発見により技術的に確立(図3)
応用;
(1)微生物…各種菌類に人間のホルモン類を生産させる
→医薬品の安価な製造が目的
大腸菌にインスリン、ヒト成長ホルモンなどを生産させる
(2)植物…多数が実用化
@機能付与植物
害虫耐性穀物、除草剤耐性穀物、"flavor
saver"、耐乾燥性植物(砂漠の緑化)、
窒素固定植物(栄養不良土壌でも生育可能)
A植物工場; GMO(genetically
Modified Organisms),GM食品
栄養成分調整作物(V.E含量増加)、ワクチン含有ジャガイモ、
降圧剤含有トマトなど
B観賞用植物; 日本初の遺伝子ビジネス商品
青いカーネーション『ムーンダスト』by サントリー
(3)動物…医療、医薬品開発への応用
@動物工場の作製;ミルクや血液中に有用物質(医薬品)を分泌させる
ヒツジやヤギの乳腺細胞内で血液凝固因子(血友病)、血栓溶解剤
(心臓疾患)などを生産させ、ミルク中に分泌させる
Aノックアウトマウスの作成;特定遺伝子の欠落マウス
(4)ヒト…医療での応用
@遺伝子治療;体細胞のみ、生殖細胞(精子、卵子)への導入は禁止
1990年アメリカで初めてADA欠損症の女児に許可、その後
1997年までに世界中で3000件近く試みられているが、成功例としての報告なし(図7)
1997年アメリカでは一時中止し、方法の見直しを行う
⇒ ベクターの開発と安全対策
現在 → 方法論の改変(ベクターの改良など)により成功例の増加
日本 → 旧厚生省、旧文部省の規制により後発。
しかし、血管新生の治療に効果 → 日本初の、国立大学教員によるベンチャー企業の立ち上げ
**制限酵素を利用して(図4、5) (図6)
遺伝子診断
個人の特定に利用…遺伝子多型を指標とする(DNAの個人差→0.1%)
いわゆるDNA鑑定…親子、犯罪捜査
3.クローニング…klon ギリシャ語で"小枝"
同じものを大量に作製……"クローニング"と表現
クローニング…無性生殖、親のコピー → 均質な個体の獲得が可能な技術
技術的確立……マイクロマニュピレーション、核移植の確立
クローニング技術の推移
1.クローンカエル(1952年アメリカ、フィラデルフィアガン研究所)、体細胞核移植
ドナー;オタマジャクシの腸管上皮細胞の核
↓ ドナーの初期化は行わず、核移植を実施
レシピアント;アフリカツメガエルの受精卵に放射線を照射→核の不活性化
↓
世界初の人工クローン個体
2.クローンウシ(イギリス、1980年代に実用化)、受精卵分割法
16細胞期の受精卵を16個の細胞に分離
↓
代理母の子宮に移植、16頭のクローンウシを作製
胎児が異常に大きく(通常の二倍くらい)成長する等の障害のため、一時中止
3.クローンヒツジ(ドリー)(1997年イギリス)、(図8)
未受精卵使用の体細胞核移植
ドナー;乳腺細胞(分化した細胞)から核を取り出す
↓ 核移植
レシピアント;ヒツジの未受精卵を除核
↓ 電場融合、
↓ 初期化(分化した細胞の核を、全能性を持つ未分化の状態に変換)
代理母の子宮に移植
クローン実験の生物学的意義 |
1.分化した細胞での遺伝子の機能……全能性は残存しているか?
発現遺伝子および構造遺伝子(housekeeping genes)以外の遺伝子はどうしているのか?
2. 細胞質、ミトコンドリアDNAの発生、遺伝への関与
クローン技術の現状、問題点 |
1.高い死亡率、低い成功率(数%の成功率)
直接の死亡原因:クローン胎児の異常成長、甲状腺異常、臍帯動脈異常
2.核移植、電場融合によるクローン作製
→操作・手順に伴うDNAの損傷
3.使用した体細胞DNAのテロメアの影響か?
4.遺伝子発現におけるインプリンティングの欠落
インプリンティング:父親と母親の遺伝子による発現の違い
クローン技術の応用、展望
1.ヒトクローンの実現;「ラエリアン・ムーブメント」やイタリア人産婦人科医の試み
2.移植用臓器の作製……キメラ個体、ハイブリッド個体の作製
⇒技術面の問題点解決に相当の時間が必要だろう
⇒ES細胞(ヒト胚性幹細胞)の実用化の可能性大