ダイオキシンと言うと、ニュースや新聞で聞いたことはあるが、それが何なのか理解できなかった。「ダイオキシン類のはなし 酒井伸一著」の本を読んでダイオキシンについていろいろ詳しく知ることができた。
ダイオキシン問題の歴史的経緯で見ていけば、1976年のイタリア北部のセベソ事件、これはイタリア北部のセベソにある、4.3―トリクロフェノール(TCP)生産工場で爆発事故が発生した。この事件は、ダイオキシン問題として、また有害廃棄物の越境移動問題として、世界的論争を喚起した事件の発端である。そのプラント周辺が、約2kgのダイオキシン(TCDD)によって1,810haにわたって汚染されたと伝えられている。住民は、避難を余儀なくされ、いろいろな諸問題が発生した。この事件は、ダイオキシン類への社会的関心を一気に高めた。一方、米国でダイオキシン類に対する関心を高めたのは、1960年代に除草剤2,4,5―T(2,4,5trichlophneoxyacefic acid)がベトナム戦争で枯葉剤として使用され、その中にダイオキシン類がppmレベルで含まれていた事がきっかけであった。その後、産業廃棄物の投薬事件として有名なラブキャナル事件において、この物質が検出され、ダイオキシン類への関心はさらに高まる。ラブキャナルサイトにおいて検出された化学物質は、トルエン、エキシンなどの揮発性有機化合物(VOCs)、多環芳香族系炭化水素類(PAHs)をはじめ、ヒ素、鉛など重金属類まで、非常に多様にわたる。特に留意されるべきレベルであるとされるのは、アンチモン、ヒ素、カドミウム、コバルト、鉛、水銀、ジクロロメタン、1,1―ジクロロエチレン、クロロホルム、トルエン、キシレン、フルオレンなどのPAHs、ヘキサクロベンゼンなどである。トリクロロフェノール製造残査も投棄されたと言われ、そのため、シベンゾフランなどのダイオキシン類が検出されており、この点が当時非常にショッキングなニュースとして伝えられたのである。日本でも香川県豊島事件が起きている。この事件の詳細は省略する。
一方、ダイオキシン類を都市ごみ焼却炉のフライアッシュにもダイオキシン類が含まれていることを発表した。その後、カナダ、米国、ヨーロッパなどで精力的な調査が行われ、都市ごみ焼却炉以外にも各種の燃焼施設から排出量の大小の相違はあるもののダイオキシン類が排出されていることが確認された。1985年にはスウェーデンにおいて都市ごみ焼却施設の建設モラトリアムが実施され、翌年にはダイオキシン類の排出指針値0.1ngNEQ/Nm3が決まり、現在では排出規制値をもつ国が多い。さらにダイオキシン類による環境汚染の実態や、乳牛ミルクや母乳の中のダイオキシン類による汚染などが明らかにされるにつれ、廃棄物焼却炉はダイオキシン類による環境汚染などが明らかにされるにつれ、廃棄物焼却炉はダイオキシン類による環境汚染の大きな発生源であることがわかった。日本では、1979年にカナダに送られた京都市の都市ごみ焼却場のフライアッシュからのダイオキシン類の検出が報告されている。愛知大学の近くにある焼却場も安全だろうか?徹底的に調査して欲しい。厚生省では1985年より5カ年計画で「廃棄物処理におけるダイオキシン類の発生メカニズムに関する研究」を推進し、1996年12月には「ダイオキシン類発生防止ガイドライン」が通知された。さらに、1997年1月には同ガイドラインが改正、強化され、日本でも本格的な削減対策が始まっている。焼却排ガスに共有されるダイオキシン類による汚染は、大規模な環境移動、循環蓄積過程を通じて、ヒトの健康にも影響を与える可能性のある問題となりつつある。また、グローバルスケールで有機ハロゲン化合物が循環移動し、極地周辺の低温地域で凝縮するという挙動があり、汚染とは無縁であるべき極地のダイオキシン汚染がすでに進行しており、地球環境の文脈からも行動が求められている。
現在、ダイオキシン類と称されているのは、一般にはパリ塩化ダイベンゾパラダイオキシン(Polychlorinated dibenzo-p-dioxins、PCDDs)と類似の性質、毒性を有する化合物であるポリ塩化ダイベソゾフラン(Polychlorinated dibenzofurans,PCDFs)で、平面構造を持つ芳香族有機化合物である。化学構造は図1.に後で示す。 PCDDsは2個のベンゼン環が2つの酵素原子で結合され、PCDFsは2個のベンゼン環が1つの酵素原子で結合される構造をもつ。個々の化合物を異性体(corgehers)と称し、同じ塩素数を有するダイオキシン、フランを同族体(homologues)と称する(例えば、4塩化のダイオキシンはTCDDs、フランはTCDFs)。いずれも1位〜6位と6〜9位の水素が塩素と置換可能であり、塩素数および置換変換によりダイオキシンで75種、ジベンゾフランで135種の異性体、合計210種の異性体
が存在する。2,3,7および8,9の位置が塩素置換した異性体の毒性が強い。2,3,7,8―TCDDの毒性が最も強いことがわかっており、この異性体をダイオキシンと称する時期が長く続いたが、2,3,7,8位が塩素で置換したPCDDs(7種類)とPCDFs(10種類)は2,3,7,8―TCDDと類似の毒性、化学反応を示すことが分かり、1986年代以降、これらを制御対象のダイオキシン類と見ることが多い。
また、多くのハロゲン化合物がこれらの塩素化されたダイオキシン類と同様の特性を有することがわかっており、これらをダイオキシン類に含めることもある。ダイオキシン類似として明確になってきているのが、ある種のPCBである。PCBs(Polychlorinated biphenyls)は図1に示す。
毒性と摂取耐容量は、次のとおりである。物理化学的な特性をもつダイオキシン類であるが、この物質が強い社会的関心を喚起し、生命への危機として語られる背景には、この化学物質群が有する強い毒性影響がまず第一に挙げられる。ラットやマウスに対する半数致死量からみた2,3,7,8―TCDDの急性毒性は、毒性が強いと言われる青酸カリの1,000倍もの毒性を有する。具体的な症状として、種にかかわらず共通のものには体重減少、胸腺萎縮、脾臓萎縮、造血機能障害などが挙げられる。また、種によっては限定的な症状としてはヒト、猿、兎などに対するクロルアクネ、ヒト、猿、鶏に対する水腫、ヒト、猿に対する色素沈着などが挙げられる。こうした一般毒性以外に発癌性、生殖毒性、免疫毒性、内分泌障害など、非常に幅広い毒性影響に関係することがわかってきている。2,3,7,8―TCDDの発癌性に関しては国際癌研究期間(LARC)は長く2B(ヒトに対して発癌の可能性性のある物質として評価してきたが、1997年2月になってグループ1(ヒトに対して発癌性のある物質)との結論を出した。非常に高濃度のダイオキシンに暴露された労働者の発癌リスクは約1.4倍になるとしている。そして、この発癌性に加えて、最近、強調され始めたのが生殖系、免疫系などへの懸念である。異性体の毒性を把握するために、2,3,7,8―TCDDに換算する方法がとられている。これは2,3,7,8―TCDD毒性等価換算係数と呼ばれ、2,3,7,8―TCDDの毒性を1とした時の相対的な毒性の強さを表す係数を用いるものである。これらの係数については、1998年にNATO/CCMSによるモデル(その後、T―TEFと称している)が国際的に採用されることになった。2,3,7,8―TCDD毒性等価換算係数を示すと図2のようになる。
次に、毒性や摂取量の判断指標といえる1日摂取耐容量(TDI、Tolerable Daily Intake)
が、ダイオキシンに対する我々の摂取レベルを判断するうえで重要な指標となる。 TDI指標をもつと言う考え方は、ダイオキシン類は遺伝毒性をもたないことから支持される考え方である。
世界各国のTDIの現状と関連の毒性情報をまとめたものが、図3である。1日体重1kgあたりのTDI量としてはWHO、オランダ、米国、カナダでは10pgTEQ/kg b、n/dayと
定められている。以下、長くなるので省略する。
さて、環境移動、食物連鎖などを経て、ヒトが食品などを摂取することにより、現実に我々が曝露されているダイオキシン類の量はどの程度になっているであろうか。図3には一般人のダイオキシン摂取量の平均的な値として2―4pg TEQ/kg /dayを提示しているが、これは摂南大学の調査結果によるものである。ヒトが乳製品、魚などの食品を通じて摂取するダイオキシン類の負荷は、日常的に100〜200 pg TEQ/day(2〜4pgTEQ/kg b、w/day)とかなり高くなっている。
以上のように、ダイオキシン類のヒトへの曝露経路は各種の食品を通じてである。主に大気中ダイオキシン類が植物・土壌へ沈着し、食物連鎖で蓄積し(特に脂質へ)されていく。こうした循環過程の中で各種の制御方策により対処していかなければならないという課題がダイオキシン問題の本質である。決して燃焼プラント周辺へ拡散した大気の直接吸引のみが問題というわけでなく、各種の環境媒体、食物を通じた摂取が問題なのである。
以上