| 環境汚染化学物質の管理システム---PRTRを例として--- (2)PRTR導入の背景と実際 |
1.PRTR(Pollutant Release and Transfer Register:環境汚染物質排出・移動登録)
1−1.目的
(1) 産業界による化学物質自主管理の推進
私達の身の回りにあふれている化学物質は、私達が豊かな生活を営むうえで必要不可欠
である反面、適切な管理を怠ると生物の生存や生態系に悪影響をおよぼす可能性を秘め
ている(環境リスク)。一方、現在製造、使用されている5万から10万種類ともいわれ
ている化学物質を従来の法規制で管理することは不可能となっており、化学物質の自主
管理に対する事業者の積極的取り組みが要求されている。そこで、事業者自らが行う化
学物質に対する適性なリスク評価、リスク管理の手法として活用する。
(2)社会とのリスク・コミュニケーションの一助
調査結果を公表して、自主活動の透明性を高め、社会との信頼関係を構築するためのリ
スク・コミュニケーションの一助とする。
1−2.導入の経緯
1974年 オランダにおける排出目録制度
1986年 アメリカにおける情報収集・公表制度の導入(住民の知る権利に対応)
1992年 ブラジルにおける国連環境開発会議での導入の提言
「sustainable development:持続可能な開発(発展)」を目指して採択された
アジェンダ21の第19章、「化学物質の適切な管理」;化学物質のリスク管理
のためには有害化学物質に関する排出目録等の情報システムの改善が不可欠であ
る。
OECDによるPRTR導入のためのガイダンス作成
1996年 OECD理事会からの加盟国に対するPRTR導入の勧告、ならびに
1999年2月に取り組み状況の報告義務
日本での経緯
1992年 日本化学工業協会が取り組み開始 (表1)
1995年 日本レスポンシブル・ケア協会(JRCC)設置、55物質の排出量
調査
1996年 環境庁によるPRTR技術検討会の設置
1997年 6月から環境庁によるパイロット事業開始、12月から経団連による
全国調査開始(表2)
1999年7月13日 「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善
の促進に関する法律」(PRTR法)の公布
2000年4月 実施に関する政令制定
2001年4月 PRTR法の施行、調査開始
2002年4月 結果報告の集計開始
1−3.PRTRとは「なにを・どこに・どれだけ」(図1)
環境汚染のおそれのある有害化学物質が、どのような発生源から、どの程度環境中に排
出されているか、また廃棄物となっているかをまとめたデータベース
問題点;
・使用禁止のうえ有効な処理法不確定のため貯蔵されている物質(PCB等)の管理状
況、や過去の汚染については言及できない。
・集計結果の公開方法については適切か。
1−4.日本および世界各国のPRTR制度 (表3)
報告対象者には、非意図的生成化学物質を排出する事業所も含む
1−5.PRTRの可能性 (図2)
行政 : 適切な環境政策の策定、効果の把握
事業者 :有害物質の使用量、排出量削減への潜在的圧力、効果的な環境・化学物質管理
の推進
市民 :充分な情報に基づく環境政策への参加・協力の促進
環境リスクについて社会全体で議論できる土壌作り→リスク・コミュニケーション
1−6.PRTRの実際
排出・移動量の算定手順 (図3)
上場企業(一部未上場を含む)478社のPRTR取り組み状況(図4)
調査表の実例 (図5)
東芝の1997年度集計結果 (図6)
昭和電工の取組み(図7)