質問、用語の解説コーナー 

生命科学応用に関連したコーナーです。

このページでは講義に関連した質問と用語を解説します。

*** 質問編 ***

Q.精神的に不安定であると、感染症にかかりやすいか。

A.精神的ストレスは各種のホルモン分泌を低下させるため、結果として免疫力も弱まり、感染症にかかりやすくなります。    

Q.ノックアウトマウスの意義とは、有害な遺伝子がわかった場合、それを除去することか。

A.ノックアウトマウスとは、特定の遺伝子一種類を人為的に取り除いて作製したマウスのことです。除かれた遺伝子が生体内でどのような機能を持っているか、発生過程でどのような役割を担っているかを調べるために開発されたマウスです。ですから有害な作用を持つ遺伝子が判明することはありますが、遺伝子は取り除くことはできません。しかし知識として、遺伝子診断等に活用することが可能になります。

Q.ベクターは治療目的以外の細胞に感染しないのか。

A.ウィルスはすべての細胞に感染するわけではなく、感染する細胞(宿主)を、宿主の細胞表面に存在する受容体(レセプター)により選択します。遺伝子治療に用いるベクターは、治療目的の細胞を宿主とするウィルスが最適ですが、現在用いられているベクターは比較的広範囲の細胞に感染するウィルスです。最近のようにベクターを病巣部に直接注射する治療方法では、治療目的以外の細胞へのベクター感染の可能性は大いにあります。ベクターの持つ病原遺伝子は除いてありますが、副作用は確かに問題となるところです。

Q.遺伝子治療で、免疫力を強くすることはできないか。

A.免疫の作用機構に関わる遺伝子は既に数多く判明していますから、遺伝子治療も可能です。

Q.ベクター改造の確率は?

A.100%でなければならないのですが、時々は病原遺伝子が残っているベクターが発見されています。日本でも、一旦許可された遺伝子治療が、ベクターに病原性が残っていることが製造元であるアメリカで判明したため、取り消しになった例があります。ですから検査を重ね、何重にも安全性を確認した後、治療に用いています。

Q.卵子が大きい理由と稚魚のお腹の袋の機能。

A.ヒトの卵子が構造として大きいのは、受精後着床するまでの約一週間をどこからも栄養補給されずに生き抜くために、たっぷりと栄養分を貯蔵しているからです。稚魚がお腹に袋を持っているのは
良く似た理由で、産卵直後は口が開いていないのでエサを食べることができず、お腹の袋に詰まっているタンパク質(ビテロゲニンという名前です)を栄養源として生きて行くのです。

Q.細胞融合で、不必要な性質だけが集まったものはできないのか。

A.もちろんできます。それらは商品化されないだけです。

Q.動物と植物の細胞融合は不可能か。

A.今のところ、成功していません。近縁種が一番上手く行くようです。

Q.ウィルスは厄介者だけではない、毒を持って毒を制す、というわけですね。

A.病原性を取り除いた改造ウィルスは、確かにいろいろと人間にとって有用な性質を持っています。

Q.制限酵素を持っている細菌類は、自らのDNA配列を知っているのか。

A.知っているわけではないと思います。長い進化の過程で試行錯誤を繰り返しながら、自分のDNAは分解しない制限酵素を蓄えていったのだと考えられます。

Q.よく劣っていることを単細胞といいますが、あれは間違いですね。

A.そうですね。講義の時にも言いましたが、たった一個の細胞で生きぬいているなんて、なかなかのものですよ。

Q.ブタの臓器を移植しても安全か。

A.問題はブタ特有のウィルスが人間に感染するか否かです。しかし、食肉として利用しているわけですから、危険性は少ないようです。

Q.ワクチンを含んだ果物、野菜は調理するとワクチンがこわれるのではないか。

A.確かに加熱するとワクチンは壊れます。ですから、生で食べられる果物や野菜が適当であり、バナナやトマトが選ばれるわけです。

Q.遺伝子の発現とはどのようなことか。

A.遺伝子をもとにタンパク質が生合成されることをいいます。つまり、遺伝子の持つ遺伝情報が具体的な形として、その人の体に現われることです。たとえば血友病の遺伝子を持っている人が、血友病を発病する現象は、血友病遺伝子の発現に当ります。遺伝子は人の一生のうちに、必ずすべてが発現するわけではありません。人それぞれに発現する遺伝子が異なるため、個性が存在するわけです。

Q.塩基のペアリングが変ることはあるのか。

A.正常な状態ではありません。すぐに修復されてしまいます。

Q.同族婚でなければ、遺伝子は保存されないか、特殊な遺伝子はどのようにして発見されるのか。

A.同族婚でなくとも、狭い範囲での婚姻が継続すれば、特殊な遺伝子は保存されます。婚姻が広範囲の人々の間で行われれば、遺伝子は拡散します。ですから特殊な遺伝子は、隔離された地域に住んでいる人々の血液検査を行うことにより発見されます。学術調査などといって、血液を提供させるようなことをしています。

Q.ヒトゲノム計画では誰のDNAを使っているのか。

A.講義でも説明しましたが、特定の個人のDNAです。ですからDNA上の個人情報は、その秘密が守らなければなりません。また、DNAの提供者にはインフォームド・コンセントがしっかりと実施されなければならないのです。このようなルールを規定したガイドラインは、日本でも策定されています。

Q.ヒトの細胞は60兆個あるそうだが、遺伝子治療では、すべての細胞で遺伝子の組換えが行われるのか。


A.すべての細胞で遺伝子組換えが行われることはありません。治療をしたい部位の細胞のみが遺伝子組換えの対象となります。例えば世界初、および日本初の遺伝子治療となったADA欠損症(アデノシンデアミナーゼ欠損症)の患者では、まず採血により患者のTリンパ球を体外に取り出す。そのTリンパ球に、正常な人の細胞から抽出したADA遺伝子を組み込んだベクターを感染させる。ベクターが感染したTリンパ球のDNAには、ベクターによりADA遺伝子が組み込まれる。このTリンパ球を培養し、数を増やした後、患者の血液中に戻す。戻されたTリンパ球が、組み込まれたADA遺伝子をもとにADAという酵素タンパク質を生合成し、さらに血液中でも増殖(数を増やす)してくれれば、遺伝子組換え治療は成功したことになる。この時、遺伝子の組換えが行われているのは、血液中のTリンパ球だけである。
 最近、p53遺伝子を用いた遺伝子治療がガン患者に施されている。この場合は、p53遺伝子を組み込んだベクターを、直接ガンの患部に注射している。体内に注入されたベクターはガン細胞に感染し、そのDNAにp53遺伝子を組み込む。すると感染された細胞では、p53遺伝子にもとずいてP53タンパク質を生合成し、その働きによりガン細胞、つまり自分自身を消滅させることにより、ガンを治療する。この時、遺伝子が組換えられているのは、ベクターが感染した細胞だけである。
 このように、現在許可されている遺伝子治療法では、体中のすべての細胞で遺伝子組換えを行うことは、殆ど不可能です。しかし、もし生殖細胞(精子あるいは卵子)が遺伝子組換えの対象となった場合、それらから生まれる子供の体は、遺伝子組換えされた細胞から構成されていることになります。ゆえに、生殖細胞での遺伝子組換え治療は禁止されています。

Q.キメラ個体は子孫に遺伝しないのはなぜか。


A.キメラ個体は受精卵が8細胞期になったあたりで、二種類の胚を融合させ、胚移植を行って作製します。ですから、二種類の細胞からモザイク状に体ができあがっています。このとき、生殖器(精巣あるいは卵巣)もどちらかの細胞から出来上がっているわけですから、子供も生殖器を作っている細胞の子供になります。つまり、モザイク状の体を持つ生物は一代限りで、子供にはその特徴は伝わりません。

***ウィルス関連のQ&A***

Q.幼児期に多くの人が感染する「おたふく風邪」は、予防注射で防ぐことはできないのか?

A.「おたふく風邪」の予防注射は開発されており,予防接種も実施されたことがあります。それは、はしか、風疹、おたふく風邪の3種類のワクチンを一つにしたMMR3種混合ワクチンと呼ばれ、日本で開発され、1989年4月から導入されました。ところが、高熱,頭痛,吐き気などの症状を伴う無菌性髄膜炎が副作用として多発するようになりました。厚生省の調査によると、副作用の発症率が1044人に1人という高率であったため、この3種混合ワクチンの摂取は1993年4月に中止されました。
  無菌性髄膜炎は元々、おたふく風邪をこじらせるとでる症状であり、副作用の原因がMMRワクチンに含まれるおたふく風邪の原因ウィルス(ムンプスウィルス)であることは間違いないようです。ウィルスの弱毒化が不充分であったとの見方もありますが,厚生省研究班によるワクチンの臨床試験では、副作用が観察されていないため、今のところ副作用発生のメカニズムは解明されていません。

Q.予防注射として人体に摂取させるワクチン(弱毒化ウィルス)は、どのようにして弱毒化しているのか?

A.ウィルスは本来の宿主(自然宿主)ではおとなしくしているが、他の生物を宿主とした時、多くの場合、宿主の細胞内で暴れまわり、病気の原因となります。ところが,このようなウィルスをさらに別の生物の細胞へと強制的にうつすと、再びおとなしく、というよりは息も絶え絶えの死にかけた状態になります。このようなウィルスは、もはや元の宿主に戻しても病気を引き起こすだけの元気を残していません。このように病原性の弱い状態のウィルスを「弱毒化されたウィルス」と呼び、予防接種に用いられるワクチン,特に「生ワクチン」として使用されています。
  例えば、上記のおたふく風邪ウィルスやインフルエンザウィルスを弱毒化するには,にわとりなどの卵の中や、卵から取り出した細胞のなかへ強制的に寄生、適応させて弱毒化します。

Q.エイズ(AIDS:Aquired Immunodeficiency Syndrom,後天性免疫不全症候群)について

エイズに感染しない人達は、他の人達にも感染させないのか?
彼らの血液に接触してもエイズには感染しないのか?
彼らの血液中では、リンパ球に入り込めなかったエイズの原因ウィルス(HIV)はどのようになるのか?


A.ウィルスは宿主(ホスト)に寄生しないと増殖できないので、寄生先であるリンパ球に入り込めない時は、血液中を放浪している間に好中球やマクロファージに捕まり、食べられてしまうでしょう。
  ですから、ウィルスがまだ血液中に残っている状態のときに彼らや彼らの血液と接触をすれば、エイズに感染する可能性は充分にあります。


***ウィルス関連用語集***

ウィルス:
 球形、円筒形、正十二面体などさまざまな形のものがある。大きさが約20ナノメートルから約450ナノメートル(1ナノメートルは十億分の1メートル)と非常に小さい。タンパク質の殻(カプシド)の内部にDNAかRNAの遺伝子をもっている。ウィルス単独では子孫を作ることはできず、感染した相手の細胞(宿主)に含まれている酵素などを利用し、ウィルスの遺伝子をもとに子孫のウィルスを作る。
人間に感染するものではインフルエンザ、エイズ、はしか、狂犬病、日本脳炎、黄熱病、天然痘などのウィルスがある。植物や細菌に感染するウィルスもある。19世紀末、最初に発見されたウィルスはタバコの葉に病気を起すタバコ モザイクウィルスだった。
ファージ:
ウィルスのなかで、とくに細菌(バクテリア)に感染する、つまり細菌を宿主とするウィルスをファージと呼ぶ
DNAウィルス、RNAウィルス、レトロウィルス:
遺伝子としてDNAを持つウィルスをDNAウィルスと呼び、風邪の病原体であるアデノウィルスが代表的存在である。
一方、遺伝子としてRNAを持つウィルスは2種類存在し、RNAウィルスおよびレトロウィルスと呼ばれている。RNAウィルスは、宿主細胞内に自分の遺伝子であるRNAをそのまま持ち込み、やがてはそれをもとに子孫の遺伝子RNAを作る。ウィルスの大半はRNAウィルスであるが、良く知られているRNAウィルスとしては、インフルエンザの原因であるインフルエンザウィルスが挙げられる。
ところがレトロウィルスは、一旦持ち込んだRNA遺伝子をもとに、「逆転写酵素」と呼ばれているレトロウィルスしか持っていない特殊な酵素を用いてDNAを作り、それを宿主のDNAにつないでしまう。こうすることにより、宿主細胞をより強力に支配することができる。代表的なレトロウィルスには、エイズの病原体であるHIVが挙げられる。
ベクター:
 遺伝子治療の際、病気を直すのに必要な遺伝子を患者の細胞の核まで届ける「運び屋」。
 現在、研究が進んでいるのは、主にウィルスと「リポソーム」という脂質の微小な袋。ウィルスではDNAをもつアデノウィルスと、RNAをもつレトロウィルスの一種類であるマウス白血病ウィルスが中心。
 レトルウィルスは「逆転写酵素」を使い、自分がRNAの形で運び込んだ遺伝子を、感染した細胞のDNAに紛れ込ませてしまうため、細胞分裂と共に治療用の遺伝子も増え、効果が長持ちする。
 アデノウィルスにはこの能力はないが、すでに分裂を止めた細胞にも感染し、細胞核へ遺伝子を導入する効率もレトロウィルスより高い。

 

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