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「性差の科学」研究会資料

1998年8月1日研究会資料 文責坂東

 体力の性差について関心を持ったきっかけは、赤松会長の指摘であった。
「男女の差が優位にあるという典型的な例は、オリンピックの記録を見ればわかる」とよく言われるが、赤松会長はそれについて、「それでも、不思議なのは昔の男の記録は今では女がはるかに凌いでいるということですよ。」
 なるほど、そうである。年々更新される記録をよくよく眺めると、昔の男性より今の女性の方が「男っぽい」ということになってしまうではないか。
 いろいろな能力の差を見るのに、記録がほぼ正確に測定されており、しかも、保存がいいのはオリンピックの記録である。そこに見られる性差を検討しておくことは、興味のある問題に違いない。それが、この問題にアプローチしてみようというきっかけであった。
  これについて、 J.ニコルソンの『男は女より頭がいいか』(講談社ブルーバックス)に記載があったので、これから検討を始めることになった。
  この結果は、「性差の科学」のなかで引用されている。実を言うとこのグラフを検討しているうちに、われわれは幾つかの疑問をもった。それは、この本の中では、それほど深く追求されていない。というのは、これについて疑問をもった点を含めて、本の中でふれるには、もう少しきちんとした検討が必要だったからである。

 その前に、この問題の検討についての経緯を少し述べておきたい。
 この本でも述べられているように、この本のきっかけを与えたのは、総合科目の取り組みである。この授業にすでに教養の単位はあまるほどとっていて、単位をとる必要のない学生が幾人か出席していた。その中に、この本に登場する、林智基君と村上大君がいた。彼らは1部で行った授業のほかに、翌年2部で行った総合科目にも出てきて、(そもそも長谷川真理子先生の1部での授業に興味を持ち、後で先生の本をよみ、いろいろな疑問が湧いたので、今度こられるときには、ぜひもう一度出て質問したいと2部の講義にわざわざでてきたのであった)。これだけ熱心に授業を受けるのも珍しい。1部の三好キャンパスと2部の講義が行われている名古屋市内の車道キャンパスでは、場所が大変離れており、交通費も往復1000円あまり必要になる。それを承知で熱心にきてくれた彼らの好奇心には頭が下がる。こういう学生がいるから面白いのである。その上、私と功刀先生が、本を作ることを知って、「僕たちにできることありませんか? 本にちょっとでも名前が載ったら嬉しいな」などどいうので、「それじゃあデータを調べて、エクセルでいいからそのグラフを作ってくれるかな。そしたらそこに名前を載せてあげるわ」といったら大喜びで、徹夜もものにせず、図書館でデータを調べ、手伝ってくれた。その成果が、「性差の科学」にある図表に載っているのである。約束どおり、名前を入れてあるからお分かりのことと思う。その中に、243ページのグラフがある。実は、以下のような解説がわれわれが徹夜して調べた結果作られた、当初の解説の原案であった。
 この時資料を提供して下さったのは、愛知大学教養部の体育担当の植屋春見教授であった。彼らはこれを詳細に」グラフ化し、幾つかの疑問を持ってきたのである。

図17 体力の性差

図17 体力の性差
  1. J.ニコルソン『男は女より頭がいいか』(講談社ブルーバックス)(文献Nとする)
    p18図1「オリンピックのランニング種目における男女記録の更新率」より転載
  2. 男女別オリンピック金メダリストの平均速度。
 林・村上は直接オリンピックの記録を検討して、文献Nのグラフには疑問があることを指摘した。文献Nでは「オリンピックのランニング種目における世界記録での平均速度」(p82,L2)と書かれているので、この記録が

 @各オリンピックでの金メダリストの記録なのか、
 Aオリンピック以外の大会での最高記録(世界記録)も含まれているのか、

 どちらかと考えられる。オリンピックでは、女子800Mは1932年から56年まで、同マラソンは1980年まで一度も競技が行われていないので@の可能性はない。Aについても、例えば1928年のアムステルダム大会の女子800M金メダリストの記録は351M/秒であるが、文献Nのグラフから読み取るとそれ以下になっている。よって、@Aの両方の可能性が否定されることになり、文献Nのグラフのデータの性格が不明である。 (資料提供 植屋春見・植屋清見 調査分析 村上大・林智基)  この文は彼ら徹夜して分析し、何度も何度も私のコメントを参考にして訂正に訂正を重ねて、坂東に意見を聞きながら書き直したものであった。しかし、これは、最終的にはさらによく調べてからということとなり、結局まずブルーバックスに問い合わせることになった。
 講談社ブルーバックスからの返事を紹介して、今度の研究会の討論の資料としたい。


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