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【法学部研究懇談会】「食品の安全と刑事責任」報告

2015年11月19日(木)13:30から、名古屋キャンパスL1102教室におきまして、 本学法学部の前嶋匠准教授が「食品の安全と刑事責任」というテーマで報告されました。 当日は、多くの教員および学生が参加し、闊達な議論がなされました。 報告内容につきましては、以下の谷澤佳保里さん(法学部4年:前嶋ゼミ) のレポートをご一読ください。

 

次回は、2016年3月31日(木)13:30から、L1102教室にて、 法学部の村瀬智彦教授が報告されます。 次々回は、金井幸子准教授の報告を予定しています。 是非ご参加ください。

 

法学部研究委員 吉垣実

 

学生によるレポート

「食品の安全と刑事責任について」

谷澤佳保里

(愛知大学法学部4年、2015年11月時点)

 

食品の安全について刑事責任を問うとは、 大きく分けて刑法典上における責任と特別法上における責任の二つの場合に分けることが出来る。 刑法典は、狭義の意味での刑法である。 日本では刑法典の中に食品の安全を直接に保護している規定は存在しないため、 刑法上で刑事責任を問うには、 欠陥商品を出してしまった企業の責任者などが業務上過失致死傷罪などといった過失犯となる。 日本が高度経済成長期であったころ、 世論は人の安全よりも経済全体の発展を望んでいたために食品の安全保障はないがしろにされていた。 そのため死傷者が数百名出てしまう重大な事件が複数発生した。 その反省から食品衛生に関する法律の改正や従業員の意識改革、 衛生管理の徹底が行われるようになった。 また、加工過程が適切であっても原材料に人を害する成分があったため、 死傷事故が発生する場合もあり、より食品の安全に対して徹底して配慮するようになった。

 

しかし食品の安全について刑法典上の刑事責任を問われた例は多くない。 食品の安全について刑事責任の多くは、刑法以外の特別法によって問われる。 故に特別法上の刑事責任のほうが重要である。 しかしながら食品の安全に関する特別法は、数多く存在する故に、 すべてを説明しきることはできない。 したがって、以後の法律は特別法の中でも重要な一部のもののみである。

 

食品の安全に関する特別法の一つである不正競争防止法は、 以前から食品の安全に対してしばしば登場してきた。 しかし不正競争防止法そのものは事業者間の公正な競争の確保により、 国民経済の健全な発展に寄与することが目的であるため、 消費者保護は目的とされていない。 その中で、食品の安全についての刑事責任に関する条項は二つある。 一つは、2条1項13号で誤認惹起行為と言う、食品の原産地や製造方法、 数量などを誤認させるような表示がされていると処罰される。 またもう一つは、 21条2項1号で不正の目的で偽装を行った場合及び誤認させるような虚偽表示を行った場合処罰される。 不正競争防止法によって刑事責任を問われた事件では実際に死傷者どころか健康を損なう人が出るようなことはなかった。 しかしながら、食品の表示を偽ることで消費者に食品表示に不信感を抱かせたことで、 それが食品そのものの安心・安全を揺るがすものとなっている。

 

また別の特別法で食品衛生法がある。食品衛生法はそもそも食品の公衆衛生が目的であったが、改正され国民の健康保護を目的とするようになった。

 

食品衛生法と内容が共通している面がある法律で、JAS法がある。 JAS法は食品表示の適正化が目的である。 JAS法には今までの法律と明らかに異なる点が存在した。 それは罰則が直接適用されることがない間接罰規定だった。 しかしそれも産地偽装の事件が多発したことで表示の信頼性を求める世論の高まり、 2009年産地偽装のみJAS法においても直接罰規定が置かれた。 だが、依然として産地偽装以外は間接罰規定のままである。

 

先述したように食品衛生法とJAS法は共通している面があり、 場合によっては両者に重なって規定しているため、 消費者や事業者が混乱することがある。 そこで、両者の似通った点を集め統合して、食品表示法が制定された。 食品表示法は食品を摂取する際の安全性及び一般消費者の自主的かつ合理的な食品選択の機会の確保を目的として作られた。 罰則については、食品衛生法やJAS法で置かれていた内容を受けついている。 また、原産地を虚偽表示した者も処罰される。 この内容は不正競争防止法と同様であるが、不正の目的が明らかでなくてもよい点と、 直接虚偽表示した者でなくても処罰できる点において異なっている。

 

以上の特別法を比べてみると、 消費者保護や食品の安全性を目的とした食品表示法やJAS法などより、 安定的な経済を目的とした不正競争防止法のほうが処罰を重く規定されている。 そのことから、日本では未だに経済発展を重視している傾向があることが推定される。

 

更に、狭義の刑法と特別法とを比較すると、起こった事件に対してその責任を求めて、 事後対処である刑法に対して、 特別法はこれから起こるかもしれない事故に対して防止を怠った者に責任を求めており、 事前抑制となっているという違いがある。 これまでも特別法に食品の安全性を求めてきている以上、 今後はより一層事故防止のために特別法が求められていくと思われる。

 


報告者の前嶋匠准教授(左側)とレポート作成者の谷澤さん(右側)

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