[テーマ:中国における民俗文化の変容]
民族集団には、その基体をなす人々のあいだで日常的、集団的、類型的に数世代にわたって伝承されてきたもの=「民俗文化」がある。それは衣食住や日常生活、冠婚葬祭、年中行事、あるいは家族・親族・地域共同体・職業集団などさま社会生活、生産や消費、交易、交通などの経済生活など暮らし全体におよぶ。
中国では、漢族と55の少数民族からなる民族集団がそれぞれの自然環境に適応しながら、あるいは異文化との接触、政治や社会の変化の影響を受けながら、それぞれの「民俗文化」を変容させてきた。また中華人民共和国成立後は、文化大革命(1966〜76)を境にさまざまな伝承が中断し、80年代からの経済改革では人々の生活様式や価値観が大きく変化した。そのため所謂「民俗文化」においても簡略化や消滅、新たな「民俗文化」の創出など多様で大きな変化がみられる。
毎年、本演習では特定の民族を対象として選び、事前準備、中国での聞き取り調査、報告書の作成などを通して、一つの民族集団における「民俗文化」の変化の諸相と意味を考えていく。
[授業計画](3,4年生合同授業)
1 講義:4,5月
中国の各民族についての概説
事前準備:6,7月
調査対象の民族を決定し、参考文献目録を作成する。
基礎的文献資料、映像資料、先行研究などを学習する。
各自が調査テーマを決め、その内容について発表する。
調査地を決め、調査地についての情報を収集する。
調査テーマ、調査地にそって質問表を作成する。
現地に行く前に、1,2回の合宿を実施。
現地での聞き取り調査:8月あるいは9月の10日間前後
報告書(4年生は卒論)の作成:10〜1月
報告書の概要、進捗状況を適宜発表し、報告書を完成させる。
[現地調査実施状況]

ナシ族の村にて

[2000年度現地調査]―ナシ族、ハニ族―
日時 2000年8月27日〜9月6日(11日間)
調査地
調査の概要 麗江では東巴伝習院に宿泊し、ナシ族の一般家庭の食事を味わい、その作り方などを実習。また城内の民居や東巴博物館、東巴の実演などを参観し、東巴との座談会、県城と周辺の郊外農村での戸別訪問による聞き取り調査を行った。紅河州元陽県では県城招待所に宿泊、県城では周辺に居住するハニ族やイ族、タイ族などが集まる定期市を見学し、農村では郷人民政府で郷全体についての概況説明をうけ、村落で農家を戸別訪問して聞き取り調査を実施。また棚田や灌漑施設、稲刈り、藍染め、放牛などの日常生活を参観し、伝統的な食事をごちそうになった。雲南省社会科学院の郭大烈先生や雲南省紅河州民族研究所の李期博先生、元陽県文史民族宗教委員会の盧朝貴先生をはじめとする関係の諸先生には大変お世話になった。
なお卒論とこの他の参加学生の報告をまとめた調査報告書を6月に刊行予定

[2001年度現地調査]―タイ族―
日時 2001年8月26日〜9月2日(8日間)
調査地
調査の概要 調査地では郷人民政府で全郷の概要説明をうけた後、戸別訪問による聞き取り調査を実施。参加学生(4年生2名、3年生5名)の調査テーマは、タイ族の住生活、食生活、家族制度と婚姻、民間音楽と歌手、年中行事、宗教生活、文身など。生産活動や日常生活を見聞できただけではなく、初盆の儀式や満1ヵ月のお祝いにであった。このほか昆明では民俗村、海県では八角寺や定期市、景洪ではガーランパなどを参観。

[2002年度現地調査]―ハニ族−
日時 2002年8月23日〜31日(9日間)
調査地 雲南省紅河ハニ族イ族自治州元陽県新街鎮 口村・大魚塘村・多依樹村
調査の概要 予定の調査地は同州緑春県大興鎮_別新寨であったが、雨季で緑春県への道路が土砂崩れに遭って通行不能となり、急遽、元陽県の3村に変更した。この3村はほぼ同じ様な地理的条件にありながら、近年、経済的発展に違いがうまれ、人々の生活水準や意識にも微妙な差がみられた。2001年に民俗村に指定された_口村ではインフラ整備が進み、観光関連の就労の機会や現金収入の道が増え、周辺の村に比べて豊かになっただけでなく、村内でも貧富の差がうまれていた。他の2村は旧来のまま自給的な米作と出稼ぎに頼る暮らしであった。調査は戸別訪問によって、家族や自治組織、衣食住、教育、芸能、年中行事とシャーマンなどの項目について行った。

[2003年度現地調査]―スイ族、トン族、ミャオ族―
日時 2004年1月5日〜13日(9日間)、3年生18名が参加
調査地 貴州省黔東南ミャオ族トン族自治州の三都水族自治県三洞郷版廟村(スイ族)、黎平県茅貢郷登岑村・黎平県肇興郷紀堂村(トン族)、従江県丙妹鎮巴沙村(ミャオ族)、 広西チワン族自治州桂林
調査の概要 貴州省を代表するミャオ、スイ、トン族について、各自が衣、食、住、職人(木工、紙漉き)、恋愛と婚姻、教育、家族と親族などのテーマを担当し、戸別訪問による聞き取り調査を行った。各村では、入村の儀式が行われ、歌と踊りによる歓迎、ナレズシなどの伝統食を体験。トン族の村々でみたみごとな鼓楼や花橋、風雨橋、鼓楼の前で行われた「擡官人」の演技に感動。ミャオ族の村では、髪を剃ってチョン髷を結う成年式や結婚隊列、米搗き、ろうけつ染め、女性たちの百ヒダスカートの制作などを見学。スイ族の村では五百年の歴史をもつ「馬尾繍」や紙漉きが家庭婦人によって制作されているところを見学。「スイ書」やシャーマンも暮らしの中で生きていた。

[2004年度現地調査]−ナシ族、モソ人−
日時 2004年8月20〜27日(8日間)、3年生・大学院生16名が参加
調査地 雲南省香格里拉県三_ナシ族郷東_村(ナシ族)、麗江ナシ族自治県(ナシ族)、麗江市寧浪イ族自治県永寧郷モソ山庄等(モソ人)
調査の概要 ナシ族は固有の宗教「トンパ教」と絵画のような象形文字「トンパ文字」で知られている。今回は「トンパ文化」を最もよく保持するとされるシャングリラ県の東_村と、ナシ族に分類されることに異を唱え、「妻問い婚」を行う母系制のモソ人の村を訪れ、家族、婚姻、食、住、教育、宗教、年中行事、古楽などをテーマとしてシューマン「トンパ」や住民に聞き取り調査を行った。東_村では最高齢の老トンパ(91歳)をたずねて祝福を受け、トンパの踊りや音楽を鑑賞し、モソの村ではたまたま葬儀の前日に到着し、村人への聞き取りはほとんどできなかったが、火葬の一部始終を実際に見ることができた。また世界遺産に指定された麗江古城を歩き、ナシ族博物館を見学した。

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