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 そっちは変わりありませんか。春の匂いは届きましたか。
 こっちは最近、珍しく雨が多いです。でもどんよりとした雲が阻むようにたち込めている朝でも、授業中ふと窓の外を見れば、重たい雲になど負けない太陽の光がやわらかく注いでくれる、そんなおだやかな毎日です。
 この地に降り立ったあの日、私は漠然と言い表せないような不安でいっぱいでした。右も左も分からない、新しい生活の始まり。日本での今までが何ひとつ通 用しない、逃げ出すことのできない4ヶ月。スーツケースにつめ込めなかった海の向こうへの想いを、痛いほど噛みしめる夜でした。
 けれど、ここは待ち望んだ地、天津。外に踏み出すことが出来てみれば一転、初めて見る全てにまるで小さい子みたいにわくわくして、もう前向きにならずに なんていられませんでした。仲良しのクラスみんなで、初めて触れた中国の味。テーブル回して箸をおずおず、口に合わなきゃ笑いがもれて、「中華料理は大人 数で」雑談の八割を食が占める安部先生の言葉を思い出しました。
 「これはいくら?」「おいしい」「ありがとう」
 簡単な中国語と、
 「おまけしてあげる」「こうやって食べるのよ」
 接することで伝わる言葉。
 少しの勇気と好奇心で、どれだけだって広がっていく世界。
 わたしの、第二の家。
 もちろん、毎日楽しいことばかりじゃないし、時々ふっと不安になったり、糸が切れてしまったりすることもあります。けれど、一人きりでここにいるわけ じゃない。一年間一緒に中国語を学んできたみんなが前のドアや隣のドアの向こうにいてくれるから、いつまでも弱くなっているわけにはいかない。ふざけたり おしゃべりしたり、時には甘えたり泣いちゃったりして寄りかかり合いながら、語学だけではない現プロだからこそ学ぶことのできる何かを、今しっかりとつか みつつあるような、そんな気がしています。
 とはいえまだ、一ヶ月。こっちももうすぐ、短い春。
 そっちで桜が満開になる頃に、また報告します。
 海の向こうの故郷が、毎日おだやかでありますように。
 

 
 第10回現地プログラムが開幕したのは3月9日。その日から学生189名と引率教職員4名が、南開大学のキャンパスにある南開愛大会館にて寝食をともに するファミリア的生活を開始。3月10日の開講式典、12日から開始した授業、23日に行われた第一回単位テスト、第3週目から朝6時30分からスタート した太極拳、二回の集団換金などを経て、ハードな一月ほどの現地生活を送った。
 授業はすべて中国語で行われているが、現地プログラムに参加している愛知大学の学生は例年に比べ遅刻や欠席が少なく、南開大学側の教員からは明るく知的好奇心に満ち、積極的な対応姿勢が素晴らしいと好評だ。
 単位テストは翻訳・聴力・口語・精読に分けられている。翻訳・聴力・精読は筆記試験、口語は担当の先生と学生とが一対一の面接方式で進められ、内容は学 生による抽選で決められる。会話試験は一人ずつ行われるため、順番待ちの学生が必死で発音練習している姿に、彼らの不安と必死な気持ちが伝わってきた。
 週末は天津市内での外出を楽しんでいるのがほとんど。先輩に紹介された「名所」を見学したり、新しい世界を切り開こうと未知の場所に出かけたりするなど、若者らしく活発に行動している。
 例年と同様、会館のスタッフ、漢語学院の先生方、国際交流処の関係者の暖かい心遣いと熱心な指導、また、あらゆる方式で大学本部と取っている連絡も、天津にいる193人のファミリーを支える源となる。

 引率教員 高 明潔