そっちは変わりありませんか。春の匂いは届きましたか。
こっちは最近、珍しく雨が多いです。でもどんよりとした雲が阻むようにたち込めている朝でも、授業中ふと窓の外を見れば、重たい雲になど負けない太陽の光がやわらかく注いでくれる、そんなおだやかな毎日です。
この地に降り立ったあの日、私は漠然と言い表せないような不安でいっぱいでした。右も左も分からない、新しい生活の始まり。日本での今までが何ひとつ通
用しない、逃げ出すことのできない4ヶ月。スーツケースにつめ込めなかった海の向こうへの想いを、痛いほど噛みしめる夜でした。
けれど、ここは待ち望んだ地、天津。外に踏み出すことが出来てみれば一転、初めて見る全てにまるで小さい子みたいにわくわくして、もう前向きにならずに
なんていられませんでした。仲良しのクラスみんなで、初めて触れた中国の味。テーブル回して箸をおずおず、口に合わなきゃ笑いがもれて、「中華料理は大人
数で」雑談の八割を食が占める安部先生の言葉を思い出しました。
「これはいくら?」「おいしい」「ありがとう」
簡単な中国語と、
「おまけしてあげる」「こうやって食べるのよ」
接することで伝わる言葉。
少しの勇気と好奇心で、どれだけだって広がっていく世界。
わたしの、第二の家。
もちろん、毎日楽しいことばかりじゃないし、時々ふっと不安になったり、糸が切れてしまったりすることもあります。けれど、一人きりでここにいるわけ
じゃない。一年間一緒に中国語を学んできたみんなが前のドアや隣のドアの向こうにいてくれるから、いつまでも弱くなっているわけにはいかない。ふざけたり
おしゃべりしたり、時には甘えたり泣いちゃったりして寄りかかり合いながら、語学だけではない現プロだからこそ学ぶことのできる何かを、今しっかりとつか
みつつあるような、そんな気がしています。
とはいえまだ、一ヶ月。こっちももうすぐ、短い春。
そっちで桜が満開になる頃に、また報告します。
海の向こうの故郷が、毎日おだやかでありますように。
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